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話せば死ぬぞーーまさかりが淵/黒史郎の妖怪補遺々々

妖怪補遺々々(ようかいほいほい)

ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」! 連載第52回は、死なない、死んでも甦る魚の伝承から補遺々々します。

 

愚かな主人公

「だれにもいってはいけないよ」

この約束、皆さんはちゃんと守れますか?

いってはいけないことほど、なぜか人に話したくなります。秘密というものは隠そうと袋の中にしまい込んだ時点で、いつかは外へ漏れるようにできているのかもしれません。

もし、刃物や銃口を喉元に押しつけられ、「いえば命はない」と脅されたらどうでしょうか? その秘密を守れますか?

 

小泉八雲『怪談』の雪女の話は、あまりにも有名な「秘密を守れなかった」怪談です。

「今夜あったことを話せば殺す」と雪女からしっかり釘を刺された主人公は、あろうことか雪女本人に口をすべらせてしまい、その結果、さらに太い釘を刺されたうえに美しい妻までも失ってしまいます。「ホントなにやってんだよ……」と思わずため息が出ますが、生かしてもらっただけでも儲けものなのかもしれません。

 

昔話の主人公の中には、絶対厳守の約束事を破ってしまったがため、最悪の結末を迎えた者も少なくありません。

 

約束を破った代償

神奈川県横浜市戸塚区汲沢町に【まさかりヶ淵】という滝があります。この滝には昔、大蛇が棲んでおりました。

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市民の森の中に物語の舞台はあった(写真=黒史郎)。
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ここが、現在のまさかりヶ淵(写真=黒史郎)。

 

ある日、滝の上の山で「さき山」という若い樵(きこり)が木を伐っていたところ、手がすべって鉞(まさかり)を滝壺に落としてしまいました。慌てて山を下りて滝を覗き込みますと、なんとも不思議な光景を目にします。

滝壺の水の中が明るく、そこできれいなお姫様が機を織っているのです。

「あの、すいません、鉞を取ってくれませんか」

恐る恐る水の中のお姫様に頼みますと、お姫様は「これですか」と鉞を拾いあげます。

しかし、ただでは渡しません。さき山に、こう忠告するのです。

「私はここの主です。私がここにいることは人にいわないでください。もし約束を破れば、あなたの命はたちどころになくなりますよ」

 

こうして鉞を返してもらったさき山、家に帰って驚くことになります。

親戚やご近所さんが大勢集まって、法事をしていたからです。

もっと驚いたのは集まっていた人たちです。彼らの話によると、さき山が木を伐りに行ったまま帰らないので、てっきり死んだものだと思ったのだそうです。なんと今日で三回忌ということでした。

当然、「何があったのか」とみんなは話を聞きたがりますが、お姫様との約束は破れません。なにせ、約束を破れば命を失ってしまいます。

ところが、あまりに母親がしつこく聞いてくるので、滝で見たこと、あったことを話してしまいました。

すると、さき山はパッタリと倒れ、そのまま死んでしまったそうです。

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まさかりヶ淵の物語を伝える看板(写真=黒史郎)。

 

滝壺の主だというお姫様は何者でしょうか? この滝に棲むという大蛇だったのでしょうか?

「まさかりヶ淵」の伝承には、次のような類話もあります。

 

200年ほど昔のこと。彦八という樵が鉞を滝に落として、たいへん困っていました。

すると、「ピンピン、ピンピン」――機を織る音が聞こえ、滝壺から美しい娘が現れます。

娘は彦八に頭を下げ、こういいました。

「あなたの落とした鉞が、滝に棲む魔物に当たって退治してくれました。お礼をいたしましょう」

彦八は竜宮のような素晴らしい場所へと連れていかれ、美味しい料理をごちそうになります。3日ほど楽しんで、そろそろ帰ろうとしますと、娘は彼にこう告げます。

「このことを他言しないでください。他言すればあなたの命はなくなるでしょう」

 

彦八が3日ぶりに家へ帰りますと、たいへんなことになっていました。自分の三回忌の法事が行われていたのです。彼はとっくに死んだものとされていました。

なにがあったのかと問い詰められた彦八は、滝の娘との約束もすっかり忘れ、「滝にはきれいな娘が――」と話し始めたところで、息絶えてしまったといいます。

 

偶然にも落ちてきた鉞で倒されてしまった「魔物」とは、別の話で語られている大蛇のことでしょうか? では、この機織り娘は何者なのでしょう?

 

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まさかりヶ淵の物語を伝える石碑。前の看板とは少し内容が違います(写真=黒史郎)。
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物語の主人公の供養塔(写真=黒史郎)。

 

次の話も機織り娘が登場する不思議なお話しです。

 

おかっぱさま

宮城県加美郡色麻村で「おかっぱさま」の呼び名で知られる磯良神社にまつわるお話です。

 

神社にある御手洗池は、日照り続きのときでも水が涸れることはほとんどありませんでした。この池から用水の堀が続いており、そこで若者ふたりが潜って遊んでいますと、いつのまにか水のない所へと出ました。

そこには立派な家があり、中で17、18の美しい娘が機織りをしているのが見えました。

ここはどこかと尋ねると、娘はこう答えます。

「ここは人の来るところではないから早く帰れ」

驚いた若者たちは帰ろうとしますが、すぐに呼び止められ、こう忠告をされます。

「ここへ来たことを3年経たぬうちに語るな。語れば必ず災いがあるから」

ますます怖くなりましたが、若者たちはなんとか無事に帰ることができました。しかし、ひとりは酒の勢いでうっかり秘密を口にしてしまい、死んでしまったそうです。

 

<参考資料>

「神奈川県 伝説散歩」『神奈川県風土記 風土と文化』

永井路子・萩坂昇・森比左志『神奈川の伝説』

「河童神に関する昔話」宮城縣教育會編『鄕土の傳承』第二号

横浜市 公式ウェブサイト http://archive.city.yokohama.lg.jp/