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日清「All-in PASTA」が拡大する完全栄養食時代/グルメの錬金術師

大手も参入、完全栄養食市場

2013年にアメリカで「ソイレント」という飲み物が発売された。これさえ飲んでおけば何も食べなくて良いという、ある意味、未来的な飲み物である。事実上、世界初の完全栄養食だ。発売まもなく、私も飲んだが、ちょっと脂っぽいプロテインパウダーのバニラ味といった代物だった。

その後、日本で同様の完全栄養飲料と同スナックをCOMPが発売、続いてベースフード社が「ベースパスタ」を発売した。一食分の栄養をパスタに練り込むという発想はこれまでの食品業界にないものだった。日本独自の完全栄養食市場はこの時期に始まったといってもいいだろう。

そして2019年、日本の完全栄養食市場に、即席めん業界の巨人である日清食品が参入、「完全栄養食」は一気に食のメジャートレンドに躍り出た。

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日清食品の「All-in PASTA」は麺に栄養素を練り込んでいるのではなく、栄養素を麺の中心に閉じ込め、味や食感を構成する小麦ベースの外層で覆う新開発の「栄養ホールドプレス製法」(特許出願中)を採用している。ビタミンやミネラルなど、1日に必要なすべての栄養の1/3量を1食に配合してある。3食で1日の必要量になる目安だが、同社は「これだけを食べて生活しましょう」という発想ではなく、日ごろの栄養バランス調整のために「All-in PASTA」を食生活に取り入れてほしいと提案している。

 

マーケティング部ダイレクトマーケティング課ブランドマネージャーの佐藤真有美さんによれば、「All-in PASTA」につながる研究には15年以上前から取り組んできたのだという。

「2017年までは、栄養素を配合したスープタイプの商品『カミングダイエット』シリーズを販売していました(現在は販売終了)。1杯にビタミン、ミネラル、アミノ酸など、1日に必要な栄養素の1/3量が入っていて、置き換えダイエットにも使える商品です。スープの中には、ぷるぷるとした弾力のある食感の『グミパスタ』が入っていて、『グミパスタ』をしっかりかんで食べることで、食事としての満足感を得ることができます。当時、完全栄養食というカテゴリはまだなかったのですが、栄養素の面では1日に必要な1/3量を満たしていましたので、現在の完全栄養食に通じる商品だったといえるのではないでしょうか」

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日清「カミングダイエット」(現在は販売終了)。

 

2017年になると、日清食品は「All-in PASTA」の開発に着手する。当時、日本の完全栄養食市場はCOMPが牽引していた。ゲーム好きを中心に、PCから離れる時間を惜しむライフスタイルのユーザーが効率重視で手にしていた。

「弊社はeスポーツのイベントにも協賛していますし、元々、即席めんはゲーマーの人たちにも親和性の高い食品なんです」

 

日清食品グループには『the WAVE』という世界最先端の研究拠点がある。『the WAVE』でもさまざまなカテゴリで完全栄養食品を試作していたそうだが、「麺」で挑んだところに、日清食品の本気が現れている。

正式に開発のゴーサインが出たのが2年前、2017年だった。

「なんとか創業60周年という節目の年が終わるまでに世の中へ送り出したい! と必死になって開発を進めていました」

2019年春の「完全栄養食に日清食品参入!」の背景には、15年以上に及ぶ研究開発があったのだ。

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All-in PASTAシリーズ。

 

栄養をホールドプレス!

「All-in PASTA」を開発する上での課題は、栄養素の配合方法だった。『カミングダイエット』ではスープに栄養素を溶け込ませることでバランスよく仕上げることができたが、麺で商品化する場合、ソースに栄養素を溶け込ませてしまうと、ソースなしでは完全栄養食として成立しなくなる。いかにして麺に必要な栄養素を混ぜ込むか?

 

「麺に栄養素を練り込もうとしても、栄養素には伸縮性がないので生地がまったくまとまらず、麺がブチブチと切れてしまうんです」

そこで浮上したのが「日清ラ王」などで使われている日清食品独自の製麺技術だ。「ラ王」の麺は三層構造になっていて、外側の生地が中心層をサンドイッチするようにくるんでいる。この技術を使えば、麺の内側に栄養素を閉じ込めた層、外側に味や食感の良い小麦ベースの層という構成で、生地も切れることなく滑らかに仕上がる。また、茹でた際に流出する栄養素を最小限にとどめるとともに、食べたときに感じる栄養素独特の苦みやえぐみを抑えることにも成功した。

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めんに栄養素を閉じ込める製法を採用した。

 

「All-in PASTA」を試食する。ユーザーは乾麺をゆで、ソースをかけて仕上げる。

味はいい意味で普通だ。栄養素を麺の内側に閉じ込めているので、食べてもビタミンやミネラルによる苦みやえぐみは感じない。体に良い物=玄米や自然農法の野菜のようにクセがある、というイメージを刷り込まれているのだけに、「All-in PASTA」は後味に漢方薬を薄めたようなミネラルの味が少し残るものの、普通においしいことで逆に拍子抜けしてしまった。

完全栄養食はフードテックのホットなキーワードになりつつある。しかし完全栄養食市場は立ち上がったばかりで、まだまだ小さい。

完全栄養という機能への関心がひと段落するであろう今後、地域差も含めて味の違いが重要になっていくはずだ。ベースフード社もアメリカに進出中だが、国による味覚の違いも今後の開発の重要課題になるかもしれない。

 

かつて、日清食品の創業者、安藤百福氏は「チキンラーメン」の製法特許を広く公開することで市場の底上げを図り、現在の即席めん市場を作り上げた。完全栄養食という市場も、日本のメーカーが協力し先導しながら、世界へと広げてほしいものである。