都市伝説・考察・陰謀・不思議・オカルト

地磁気逆転を引き起こす謎の力と「磁気十字軍」

消息を絶った北極探査船

1845年7月。初夏の穏やかな風に帆をふくらませ、2艘の帆船がグリーンランド近くの北極海をゆっくりと航行していた。船は大英帝国の誇るテラー号とエレバス号。最新鋭の設備を備えた北極探検船だ。

船団を率いるのはジョン・フランクリン海軍大佐。これまで3度も北極探検を成功させた海軍の英雄である。大佐に絶大の信頼を寄せる129名の乗員のだれもが、この探検の成功を確信していた。

furank1
フランクリン船団。

 

が、しかし……。

海難史上最悪の悲劇といわれる事件は、このすぐ後に起きた。2艘の船は北極海のどこかで、忽然と姿を消してしまったのである。その後、英国の威信をかけた捜索にもかかわらず、彼らの消息は杳としてわからなかった。フランクリン隊遭難の真相は、150年もの間、謎に包まれたままであった。

ところが2016年、テラー号とエレバス号がカナダの北で発見される。そして調査の結果、恐るべき事実が明らかになった。

彼らはなんと2年半もの間、生き延びていたのだ。病魔や飢えと闘いながら、閉ざされた氷の世界をさまよいつづけた。食料が尽きた後は、先に倒れた仲間の屍体を調理して食べた。航海日誌に記された彼らの全滅までの日々は、まさに地獄そのものであった。

しかし、なぜフランクリン大佐は遭難の初期段階で引き返そうとしなかったのか?

実はこの北極遠征隊には、簡単に引き返すわけにはいかない、非常に重要な使命が担わされていた。その使命のひとつは、大英帝国の貿易発展に大きな影響を及ぼす、新たな北西航路を捜すこと。

そしてもうひとつ。彼らは、磁気十字軍のメンバーだったのである。

 

移動しつづける磁北極

磁気十字軍――。聞きなれない言葉かもしれない。これは当時の英国王立協会会長エドワード・サビーン卿によって創設された、国際的な磁気観測活動組織のことである。サビーン卿は、できるだけ北極の近くに磁気観測の拠点を設置したいと熱望し、フランクリン隊はそのための最新鋭の観測設備を運ぶ途中だった。もし彼らの北極遠征が成功していれば、磁気十字軍は地球磁場の謎の解明に大きく寄与していただろう。

edword1
磁気十字軍を創設したエドワード・サビーン卿(右から4番目)を中心に、捜索委員会が発足した。

 

しかし、命の危険を冒してまで調査せねばならない謎とは、いったい何だったのか? それは磁北極の謎を解明することであった。

磁北極――。

これまた耳慣れない言葉が出てきたかもしれない。磁北極とは、簡単にいってしまえば、方位磁石の針が指す北の極点のことである。

ちょっと待った。方位磁石の針が指しているのは、北極点ではないのか? そう思われる読者もいらっしゃるかもしれない。

それが違うのだ。コンパスが指す北と、実際の北極点とはかなりのズレがある。このズレの角度のことを「偏角」という。現在の磁北極は、カナダの北方、クイーンエリザベス諸島付近にある。実際の北極点からの距離は、およそ500キロ南東にずれている。東京でコンパスを使った場合の「偏角」は約7度となる。

ナビなど存在しなかった時代、航海において何よりも大切だったのは羅針盤だった。その羅針盤の針が「本当の北」を指していないという事実は、船乗りたちにとって大問題であった。「偏角」の位置を調査し、正しい方位を知ることは、遠征隊にとって命を賭けるに値する行為だったのである。

磁北極の存在が、科学者たちによって確認されたのは1831年のこと。フランクリン遠征隊が磁気十字軍の使命を帯びて、北極海調査に出る14年前のことだ。以後、フリードリッヒ・ガウスやウィルヘルム・ウェーバーなどの著名な科学者の手によって、地球磁場の研究は飛躍的に発達する。

だが、研究が進むにつれ、さらにやっかいな問題が科学者たちを悩ませることになる。というのも、せっかく探り当てた磁北極が、新たに調査するたびにその位置がズレてしまうのだ。

研究者たちは当惑した。

いったいなぜ正確な磁北極の位置を特定できないのか、と。やがて彼らは驚くべき事実に直面することになる。

なんと磁北極は、常に移動しつづけていたのだ。

hokkyoku1
断続的に移動を続ける磁北極。図は1980年の磁北極と磁南極の位置。磁北極が移動しているということは、当然、南磁極の位置も変動するわけだ(資料提供=気象庁・磁気観測所より)。

 

なんとも常識では理解しがたい現象である。しかし、現在わかっている限りでいえば、過去100年の間に、磁北極はおよそ1000キロ以上の距離を移動している。その移動速度は、平均すると年に11キロほどである。ところが、10年ほど前からその移動速度が急激に上がった。なんと年に55キロものスピードで北へ移動している。そして一昨年、昨年と磁北極の移動速度はさらに加速しはじめている。

いったいこの不可思議な現象が意味するものは何なのか? いや、そもそも磁北極が移動する原因は何なのだろうか。

20190609sou

 

(ムー2019年7月号より抜粋)