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化合物の分子構造を「左右逆」に反転させる新技術

Point
■化合物にブラックライトを照射することで、分子の構造を反転させる技術が開発された
■励起状態プロトン転移という技術を用いて、S配置の分子をR配置に並び替える
■化合物のキラリティーを自在に切り替えることができるようになれば、薬剤開発の強力なツールになる

化学の基本をおさらいしてみましょう。分子は複数の原子から構成されています。たとえば、水は2つの水素原子と1つの酸素原子から、二酸化炭素は2つの酸素原子と1つの炭素原子から、それぞれできています。

化合物にブラックライトを照射することで、こうした分子の構造を「反転させる」新しい技術が開発されました。論文は、雑誌「Chemical Communications」に掲載されました。

Enantioenrichment of racemic BINOL by way of excited state proton transfer
https://pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2019/CC/C8CC07949H#!divAbstract

分子の多くは左右対称な構造を持っていますが、中にはそうでないものも。そして左右非対称性を持つ後者の中には、互いに鏡に映したように左右が反転した構造を持つものもあります。このような関係性を持つ性質のことを「キラリティー(対掌性)」と言います。また、キラリティーを持った物質を「キラルである」と表現します。

キラルな分子は、それを構成する原子を優先順位が高い順(主には原子番号の大きい順)にたどった時に、時計回りになるR配置(Rはラテン語で「右」を表すrectusから)を持つものと、反時計回りになるS配置(Sはラテン語で「左」を表すsinisterから)を持つものに分類されます。今回開発されたのは、「励起状態プロトン転移 (excited state proton transfer) 」という技術を用いて、S配置の分子をR配置に並び替える方法です。

Credit: nature

研究チームは、触媒反応を用いた不斉合成(キラルな化合物の作り分け)によく使用される有機化合物「1,1′-ビ-2-ナフトール (BINOL) 」を利用。その反応の強さは、BINOLのR配置とS配置の純度に左右されます。

S配置のアミノ酸をBINOLと反応させ、それにブラックライトを照射したところ、はじめは5:5だったBINOLのR配置とS配置の割合が、1時間後にはおよそ8:2に変化しました。

キラリティーの重要性は、1950年代末に世の中を震撼させたサリドマイド事件をきっかけに注目されるようになりました。つわり止めとして広く流通した新薬サリドマイドを服用した妊婦の多くが、奇形のある子どもを出産。1960年には薬剤との関連が警告され、サリドマイドは市場から姿を消しました。世界中で約12万人の妊婦が被害を受け、その多くが流産し、約1万人の奇形児が誕生しました。

実はこのサリドマイドこそが、キラルな化合物の一つ。人体に害のないR配置のサリドマイドに対し、S配置のサリドマイドこそが、胎児の正常な発達を阻み奇形の原因となった犯人だったのです。キラルな薬剤分子は目標のレセプターと異なる結びつき方をするため、キラリティーは薬剤開発において重要な意味を持っています。

研究チームがはじめに用意したサンプルが純粋なR配置のBINOLでなかったことにはいくぶん疑問が残るものの、この技術が実際に機能することが分かったことは一つの収穫です。研究チームは現在、より純度の高いサンプルを作り出そうと、研究方法を改善しているところです。

 

化合物のキラリティーを自在に切り替えることができるようになれば、薬剤開発の強力なツールとなり得ます。今後の研究の行方に期待しましょう。

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reference: sciencealert / translated & text by まりえってぃ