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【ノーベル化学賞】鉄球を落として安全性を実証!? リチウムイオン電池が実用化されるまで

Credit:The Nobel Prize in Chemistry 2019. NobelPrize.org. Nobel Media AB 2019. Thu. 10 Oct 2019.

Point

■2019年のノーベル化学賞に、リチウムイオン電池の開発に貢献した旭化成名誉フェロー吉野彰氏を含む3人の科学者の授与が決まった

■リチウムイオン電池は、小型・軽量化ができ、かつ容量の大きい充電可能な電池で、現代のワイヤレス機器には欠かせない技術だ

■リチウムはアルカリ金属に属し、発熱・爆発などの危険性が高かった。吉野氏は純粋なリチウムを除去して、電池の危険性を大幅に減少させた

2019年のノーベル化学賞に、リチウムイオン電池(LIB)の開発に貢献した3人の科学者、テキサス大学John B. Goodenough氏、ニューヨーク州立大学ビンガムトン校M. Stanley Whittingham氏、旭化成株式会社および名城大学の吉野彰氏が選ばれました。

LIBは、小型軽量化が可能で、容量が大きく、また従来のバッテリーと異なり電気を使い切らないまま継ぎ足しで充電を繰り返せるという非常に優れた性能を持っています。

耳に引っ掛けるだけの小型ワイヤレスイヤフォンや、PC並みの性能を持つ薄いスマートフォンが、独立した状態で8時間以上も連続稼働可能なのもLIBが実用化されたおかげなのです。

今回のノーベル化学賞の中核となるリチウムイオン電池はどのように実用化されたのか? 今回の受賞者たちが果たした功績とは何なのか? 解説していきましょう。

何がすごいの? リチウムイオン二次電池

Credit:depositphotos

電池は使い捨てを一次電池、充電して再利用可能なものを二次電池と呼びます。今回話題のLIBは充電可能なので、正式名称は「リチウムイオン二次電池」といいます。

ほんの20数年前まで、小型携帯機器のバッテリーは非常に使いづらいものでした。

30歳以上の人なら誰しも経験があるかと思いますが、昔のバッテリーにはメモリー効果と呼ばれる現象がありました。これはバッテリーの容量を使い切らずに充電を行うと、利用可能な電気容量が残量分減ってしまうという困った性質です。

メモリー効果のメカニズムは未だにはっきりわかっていません。しかし、LIBはこのメモリー効果を起こさないのです。

また、昔の二次電池は溶媒が水でした。水は1.5V以上の電圧がかかると電気分解してしまうため、それ以上の電力が得られませんでしたが、LIBは非水系電解液を使うことで4V以上の高い起電力と容量を確保できています

3人の受賞者たち

油中で保管されるリチウム。/Credit:Tomihahndorf/German Wikipedia Commons

リチウムは銀白色の金属で、水素、ヘリウムに次いで軽い元素です。ビッグバンの数分後には生成されていて、今でも宇宙線が星間ガスに衝突したとき生成されています。

そのためリチウムは宇宙ではありふれた物質です。しかし、純粋なリチウムは非常に反応性が高く危険な物質でもあります。

リチウムはナトリウムと同じアルカリ金属元素です。ナトリウムは水をかけるだけで爆発する危険物として有名ですが、リチウムも似た性質を持っていて水を掛けるだけで発熱して反応します。空気中の水分とも反応してしまうので、基本的にリチウムは油中に浸して保管します。

リチウム片に水をかけた反応。Credit:hoyuscience/【化学実験】アルカリ金属と水の反応!取り扱い注意!危険!?

今回の受賞者の1人、Stanley Whittingham氏はリチウムの弱点とも言える反応性の高さに着目し、世界で最初のリチウム電池を開発しました

リチウムの様なアルカリ金属は最外殻に電子を1つしか持たず、他の原子へ移動しようとする強い力を持っています。この作用から正電荷を持った安定したリチウムイオンを生成し、電池に利用したのがLIBです。

1970年初頭にWhittingham氏は、強いリチウムの電子放出の性質を利用して電池を作った。陰極側に純粋なリチウム金属を利用している。/© Johan Jarnestad/The Royal Swedish Academy of Sciences

97歳の最高齢受章者となったテキサス大学オースティン校のGoodenough氏は、1980年に陽極側をコバルト酸リチウムに交換することで、LIBのエネルギーポテンシャルを倍増させ、より長寿命の安定した電池にする改良に成功しました

1980年、Goodenough氏は陽極を酸化コバルトに変え、利用できる電圧を増強させた。/© Johan Jarnestad/The Royal Swedish Academy of Sciences

しかし、LIBには大きな問題が残っていました。それはリチウムの反応性の高さによる発熱・発火の危険性を取り去ることができないということでした。

LIBの爆発する危険性には、Goodenough氏も頭を悩ませたといいます。

このLIBの危険性を解消し、実用化への目処を付けたのが、旭化成の名誉フェロー吉野彰氏です。

吉野氏は、危険性の高い純粋なリチウム金属の利用を除去し、陰極側に特殊な炭素を使い、陽極側にコバルト酸リチウムを使用しました。これにより、軽量化可能な上に、発熱の危険性が低い実用的なリチウムイオン電池の開発に成功したのです。

吉野氏は純粋なリチウムを除去し、陰極に炭素を使うことで発熱の危険が少ない電池を開発した。/© Johan Jarnestad/The Royal Swedish Academy of Sciences

この研究では、吉野氏はこの改良されたリチウムイオン電池が爆発しないことを示すために、電池に鉄球を落として安全性の実証をしました。

下の画像はドイツ化学会の学術雑誌「Angewandte Chemie(アンゲヴァンテ・ケミー)」に掲載された氏の論文の実験画像です。かなり過激な実験で安全性をアピールしています。

Copyright©2012 WILEY‐VCH Verlag GmbH&Co.KGaA、Weinheim/ Akira Yoshino

こうして、現在広く使われる重要技術、リチウムイオン二次電池の道筋が立ち、私達はスマホにワイヤレスイヤフォン、薄くて軽いノートPCなどが利用できるようになったのです。

未来へ向けた改良点

リチウムイオン電池は今や蓄電池として、他の追随を許さない存在です。

IT機器だけでなく、電気自動車のバッテリーや、供給の不安定な太陽光発電、風力発電の蓄電池として再生可能エネルギーのサポートも行っています。

今回の受賞では化石燃料への依存を減らすクリーンなエネルギー技術という点も、重要なポイントになったといいます。

ただ、リチウムイオン電池は全ての問題が解決した技術ではありません。発熱の危険は完全に除去されたわけではなく、正しく運用されないためのバッテリー爆発事故は未だに報道で耳にすることがあります。

また、クリーンな点がピックアップされましたが、リチウムの採掘については環境に優しいとは言えない現状があります。

新技術はまだまだ優れたバッテリーの存在を求めていて、さらなる改良の余地、または新たな電池開発の必要性は失われていません。

「確かな目標と、たゆまぬ努力があれば未来に可能性が生まれます」と語る吉野氏。今後もこうした優れた科学者たちのあとに続く人々が、未来の世界を築いていくのでしょう。

充電できる「鉄イオン電池」の開発に世界で初めて成功